3.村松商店訪問記【レッスン後記①】

 指揮棒のメーカーといえばピックボーイとムラマツ、後は和田楽器なるものがありますが、大体国内どこの楽器屋さんにいっても置いてあるのは前二者の製品だと思います。ピックボーイはカーボングラファイト製のものが主流で、ムラマツの指揮棒は楓の木からできています。ピックボーイの方が全体的に高めの値段です。でも指揮法をならってみると、カーボングラファイトの細くてしなる指揮棒は使い勝手が悪いようです。自分も実際ムラマツ製のものを使っています。確かに木製ですので耐久性はないのかも知れませんが、でも下手に折れにくいのも時として危険ですしね(指揮者岩城宏之が何かの本で「カーボン製のものは刺さったときそのまま突き通してしまうから危険、木製なら力が掛かれば折れるので大丈夫」などと書いていました)。

 さて、このたびはそんな数少ない指揮棒メーカーである村松商店に行ってきました。自分も最初勘違いしていたのですが、フルート製造で有名な村松楽器(株)とは全く違う会社ですのでご注意を。行ってみて驚いたのなんのって、商店の影も形もない。普通にお店の形態をしていると思ったら大間違いで、3階建て倉庫風の建物がその社屋でありました。一階部分はガレージか何かのようでシャッターが閉められていますし、会社の存在が確認できるものは何もありません。玄関脇のポストに消えそうな字で「村松」とあったので思い切ってインターホンを押したところ、人の良い感じのおじさんが出てきました。

 おじさんが言うには、ここでは販売をしていないとのこと。完全な卸(おろし)のようです。でもお願いしてオーダーメイドの指揮棒を作ってもらいました。中に入れ、と通された2階の部屋は普通の台所のようなところで、ただしおびただしい数の段ボール箱が置かれていました。その中には様々な種類のコルクや棒がはいっていました。そこに転がっていた手ごろな棒とコルクを選んで、棒を任意の長さにカットし、よさそうなコルクと接合してオリジナルの指揮棒はあっという間に完成しました。オーダーメイドには違いないですけどまったく簡単なものです。

 さらに話を聞くと、埼玉県川口市にこの棒だけを作る職人がいるそうです。何本作っても同じ長さの、しかも同じ形の(指揮棒は手元に来るにしたがって太くなっています。つまりその太さの変化具合が同じ)棒を作るには10年は掛かるとか。しかも1本100円というような世界だそうです。こんなところにも職人の技が生きているんですね。

 また、近頃大人気の老巨匠ギュンター・ヴァント指揮のCDにプレゼントとしてつけていた指揮棒もその人が作ったものだそうで、それも見せてもらいました。なんでも、ヴァント氏自身が使っている指揮棒は見たことがないが、テレビで見る限りこんな感じだろうってんで作ったらしい。そんなんで良いのか?

 というようなわけで、自分に合った指揮棒がほしい!という方は一度いってみると面白いかも知れません。ただ完全な卸ですので、僕が指揮棒を作ってもらったのはかなり特殊な例だと思います。でも電話ファックスでオーダーの注文は受け付けているようなので、ここに連絡先を載せておきます(HPのことを話したら、宣伝しといてくれと言われたので)。

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村松商店(指揮棒・ドラムスティック製造・販売)
〒116-0011 東京都荒川区西尾久7-43-13
(都電荒川線荒川車庫駅前すぐ・JR東北本線尾久駅徒歩7分)
tel 03-3893-8826 fax 03-3893-8850