♪間接運動
拍を示す点の前に、その点を予知させるための予備の運動、つまり点前運動があるものを間接運動と呼びます。間接運動には、それぞれに「叩き」「平均運動」「しゃくい」と呼ばれる指揮の運動の基本が入ります。このそれぞれの運動のかもし出す表情を知ることと、また正確にそれぞれの運動を身に付けることが、誰が見ても分かりやすい指揮を振る最も重要なポイントになると思います。
それぞれの運動を組み合わせて・・・たとえば1拍目を叩きで振って、2拍目をしゃくいで・・・というように使い分けるセンスは、何度か実際に曲を振らないとつかめないので、齋藤秀雄の指揮法教程(旧)では課題曲として挙げられた8つの楽曲のすべての拍についてどの運動を用いるべきか解説しています。初心者でこの本をめくったときこの後半の部分は読み飛ばすことがほとんどだと思いますが、この教程の素晴らしいところはその解説と指摘の綿密さにあるといっても過言ではないので、ぜひ楽譜とつき合わせて読んでみてください。
①叩き
物が自然落下して底面にあたり反発してまた元に戻る、とういう動きを腕を用いて自然に表現しようとする運動です。音をどこで出したらよいか、ということを指示する上では最も明快な運動なので、とりあえずテンポどおりに合奏しよう、というだけならばこの運動だけで可能です。ただし間接運動の3つの中では最も難しく奥が深いテクニックです。叩き○年、みたいな言い方がされるほどですが、「理想的な叩き」がどのようなものかを知っているだけでも知らないよりは自分の指揮に対する反省の目がある分上達が早くなるのではないかと思います。
②平均運動
叩きの対極にある運動です。点をはっきりと出さない、しかしゆったりとした加速減速の中に指揮者の意図がはっきりと顕れ出ている。そういった運動です。こちらはコツをつかめば割とすぐサマになる運動です。
③しゃくい
平均運動と叩きの丁度中間に当たります。おそらく一番使用する頻度が高くなる動きです。またそのやりかたによってさまざまなニュアンスを引き出すことができます。先入法の練習にも登場します。
間接運動は「叩き」(硬)←→「しゃくい」←→(軟)「平均運動」という関係です。ですから「叩きに近いしゃくい」や「平均運動に近いしゃくい」ももちろんあります。叩きからしゃくい、しゃくいから平均運動へとスムーズに移行できるようになることが、指揮の表現の幅を広げることにつながります。
♪直接運動
間接運動に対して点前の予備運動を行わずに、点(拍)から直接に運動が起きるものを直接運動と呼びます。3つの間接運動を補完し、楽曲中の一部分の特殊な表現に使うのがこの直接運動です。直接運動は使いすぎると煩瑣(はんさ)な印象を与えるので、どこで使うのかを指揮者が判断して使うことが求められます。直接運動は「瞬間運動」「先入法」「跳ね上げ」「引掛け」の4つが主なものです。