3つの間接運動を補完し、楽曲中の一部分の特殊な表現に使うのがこの直接運動です。直接運動は使いすぎると煩瑣(はんさ)な印象を与えるので、どこで使うのかを指揮者が判断して使うことが求められます。直接運動の代表として4つの運動を挙げておきます。
①瞬間運動
これは硬い表情を出すためのものです。あるいは意識的にテンポを前に行かせないようにするときにも有効です。速い曲を振っているとき、どうも転んでいるなあと感じたらブレーキをかけることができます(でもやりすぎると逆に重たくなります。)指揮棒を基本姿勢で持ったまま、肘で10センチくらい上下させますが、そのとき手首には力を入れないこと。できるだけ脱力していてください。肘の内側の筋肉(叩きをするときに使う部分)をつかって一瞬で10センチ上げる、そして下げる。理想としては動き始めの時に筋肉が緊張して一瞬にして弛緩、そして止まる、という感じです。この運動の際には棒を動かしません。動きが小さいために、次のモーションへ待てずに入ってしまいがちになりますので、しっかり腕が止まったことを味わってから次へ入ってください。
②先入法
裏拍を出す指揮です。「いち、に・・・」を「いち、ト、に、ト・・・」に分けたときの「ト」の時にすでに次の「2」の開始位置に棒をもってくる、という意味で「拍より先に入る」=「先入法」と呼ばれます。1つの拍を表裏二つの拍に分けるという振り方です(下図参照)。
先入の練習ではその表情のやわらかいものから硬いものまで4段階に分けて区別しています。
♪A先入
しゃくいと同じ持ち方、構えで振ります。「1、ト」の「ト」のところで次の拍のスタートの位置に腕が静止しているようにします。静止するときには静かに止まること。また、先入は常に初速が一番大きく、加速はしません。減速していくだけです。静止のとき軽くスナッピングをします。棒の先だけが反動で止まるような動きに見えます。
♪B先入
これはA先入と基本的に同じです。ただし、静止時のスナッピングが指だけでなく肘からの動きになります。よって止まるときの反動で動く距離が長くなります。先入の表情はこの「先入時の反動の深さ」に比例します。
♪C先入
右側の腰の位置に腕を置きます。左側へ向かって急発進して左側の腰の位置に腕を置きます。(予備運動)今度は同じ事を右へ向かって行います。(これが第一拍目)軽いスナッピングを伴います。
♪D先入
身体の軸を中心に腰から上をねじるようにして、左後方と右後方にロケットを打ち出すかのように腕を出します。そして、また元の位置に「ト」のタイミングで戻ります。しっかりとしたスナッピングを伴います。
③跳ね上げ
紙風船を上げるような減速のみの運動です。点前運動がないとも言えます。先入と違って、元の場所に戻ってくるとき、さながらスローモーションのようにゆっくりと腕が降りてきます。ゆっくりと降りてきたと思ったら、いきなり最大の速度で次の動きに入ることが重要です。軽妙な印象を与えます。
④引掛け
運動は跳ね上げと同じですが、ごく僅かな点前の予備運動をつけて音を引き出します。